バオバオ フツウの家族
トリプルアップ配給協力作品
2019年9月28日(土)より新宿K's cinemaほか全国順次ロードショー!
世界のどこかで、家族になろう
ジョアンとシンディ、チャールズとティム
ロンドンで出会った2組のカップルが切望したのは赤ちゃん
4人が挑む家族のカタチ
2018年秋に台湾で公開された本作は、それに先立ち同年8月~9月に開催された「第五回台湾国際クイアフィルムフェスティバル」のオープニング作品として、海外では、スペインとロスアンゼルスの映画祭で上映されている。
二組の同性カップルが子供を持ちたいという願望から始まるこの物語は、台湾で新人登竜門として一番大きな脚本賞のコンペから生まれた。
2015年、これに応募した国立台湾大学大学院に在学中の鄧依涵(デン・イーハン)の脚本「我親愛的遺腹子」が優秀賞を獲得、プロデューサーのリン・ウェンイー(林文義)の目にとまり、映画化が進む。
話題性と時代性があり、全世界に向いた作品ということでリン・ウェンイーは同性愛に詳しいシエ・グアンチェン(謝光誠)を監督に起用し製作を開始した。
本作は、日本でも公開された先述の青春映画とは異なる。
同性を愛することに逡巡して悩める高校生を中心とした若者たちの姿ではなく、すでにそのステップを越え、社会の軋轢や理解することが難しい親たちとの確執と対峙する、深い人間ドラマだ。
台湾映画の中では、アン・リー監督の「ウェディングバンケット」(1993年)、鄭伯昱(チェン・ボーユー)監督の「満月酒」(2015年)に続く"おとなの物語"と言えよう。
この映画の主人公シンディはとても精細な心を持つ画家で、ジョアンヌはそんな彼女を愛おしみ全身で守ろうとしている。ジョアンヌはシンディの愛とぬくもりに包まれて、厳しいビジネスの世界でたたかう戦士のようだ。
誤解が生む不信感、そんな綻びから愛の不確かさに心を痛めるシンディの心象を表す冒頭の車窓の映像は、見る者もチクッとトゲを刺されるような印象深い出だしである。
ロンドン生活の経験者であるシエ・グアンチェン(謝光誠)監督は、この映画を最初は、ロードムービーにしようと思っていたという。ロンドンで子供を授かった女性と様々な人との出会いを、映像と音楽で心模様の広がりを描きたかったそうだ。
なるほど、冒頭のシーンにこめられた監督の意図は、ここにあった。
幸せにあふれる日々、ちょっとした諍い、ユーモアも交えながら描かれる妊活シーンなどが心地よいテンポで綴られていくが、これを演じる4人の俳優の顔ぶれが新鮮だ。
シンディ役は、日本とフランスのハーフで司会者として人気のエミー・レイズ(雷艾美)。本格的な演技は初めてだが、その無垢さが役とマッチしての好演だ。
ジョアンヌを演じるクー・ファンルー(柯奐如)はアイドルドラマからアート映画まで国内外でキャリアを積んでいるだけに、静と動のコントロールを時々見失う難しい役どころを安定の演技力でこなしている。
一方の男性カップルのチャールズは、台湾で活躍する日本人の蔭山征彥。俳優としての経験はもちろん、映画音楽を手がけたり、「念念」(2015年)では脚本家として香港電影評論学會の脚本賞を受賞、また「KANO(KANO 1931~海の向こうの甲子園)」(2014年)では出演のほかに若手の演技指導、演出補ほか多くの役割を担ったマルチな才能を持つが、本作では無邪気さの中に狡猾さも秘めたキャラクターを見事に演じきった。
彼のパートナー役のティムは、ダニエル・ツァイ(蔡力允)が豊富な経験から幅の広さで印象深い学者像を見せてくれる。
また、シンディの幼なじみのタイを演じたヤン・ズーイ(楊子儀)は、テレビの旅番組の人気司会者だが、数々のドラマにも出演しており本作でもシンディへの想いとそれを押さえる包容力のバランスが良い。
決して派手ではないが、ツボを押さえたキャスティングである。
台湾は、スターが出ているからヒットするということはほとんどない。おもしろいかどうか、という非常に健全なジャッジで映画を見に行くので、誰が出ているかより、誰がどう演じているかが重要だ。
「世界のどこにいても"自分たちを受け入れてくれるのはどこか、どこが家なのか" を考えている」という監督の思いを受け、この映画の出演者たちはきちんとそれに応えている。
本作を含め、LGBTを扱っていても、台湾映画が培ってきた人間を見つめる確かな"眼"が、完成度の高い青春映画であり、ラブストーリー、ヒューマンドラマを生み出す源になっている。"同志電影"(同志は、中国語で同性愛の意味)や最近多い"性別越介"(TRANCE BORDER)いうジャンル分けはあるものの、どの作品も性差を超えた素晴らしい恋愛映画なのだ。
監督:謝光誠(シエ・グアンチェン)
1969年生まれ。台湾大学社会学部卒業、1999年ロンドン国際映画学校卒業。台湾へ戻ってCMや短編、ドキュメンタリーを撮る。短編「夏日酷暑的輓歌」が2004年にイタリアFANO映画祭のコンペティションで審査員賞を受賞。2015年、 「進擊的煉乳」がアメリカFilm Crash international Film Festivalの短編部門のグランプリ獲得、台湾最大のインディペンデント映画祭「台灣城市遊牧影展(Urban Nomad Film Festival)」の大遊牧獎を受賞した。本作が長編の第一作。
脚本:鄧依涵(デン・イーハン)
台湾大学心理学部卒業。在学中に「夢迴」が、教育部(日本の文部科学省にあたる)の文芸創作賞「原題 / 児童ドラマ脚本」の優秀賞を獲得。2015年、本作のもととなる「我親愛的遺腹子」が文化部(日本の文部科学省にあたる)主催の優秀脚本賞の優秀賞を受賞。
優秀賞受賞コメント
「こどもにとっての健康と幸せの条件は血縁? それとも愛? 私は、この脚本によって様々な議論と思考が広がることを願っています。そうすれば、すべての恋人同士が自分の子供を持ち、愛し、共に成長することができます。」
ストーリー
「赤ちゃんが欲しい」と、ロンドンに住む2組の同性カップルが協力して妊活を始める。双子を妊娠したシンディは、ひとりロンドンから台湾に戻る。不安と悲しみに満ちた彼女が頼ったのは幼馴染の警官タイ。かねてよりシンディを密かに思っていたタイは、理由も聞かずに自分がお腹の子の父になると言うのだが、シンディの心は癒されない。子供を持って家庭を築きたいと願うシンディとジョアンがようやく待望の子宝に恵まれたのに、なぜ彼女はひとりで帰国したのか…。
CAST
雷艾美(エミー・レイズ)、柯奐如(クー・ファンルー)、蔭山征彦(カゲヤマユキヒコ)
蔡力允(ツァイ・リーユン)、楊子儀(ヤン・ズーイ)
STAFF
監督:謝光誠(シエ・グアンチェン)第1回長編監督作
配給:オンリー・ハーツ/GOLD FINGER
劇場営業:トリプルアップ
宣伝:山形里香
協力:GENXY/ビームス
後援:台北駐日経済文化代表処台湾文化センター
2018年 / 台湾 / 97分 / 1:1.85 / 原題「親愛的卵男日記」、英題「BAOBAO」
© Darren Culture&Creativity Co.,Ltd
公式サイト
http://baobao.onlyhearts.co.jp/